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信州の匠を訪ねて

02 山守 川島潤一さん (山造り舎)

サラリーマンから山守へ 木の命を“うつしかえる”仕事


選木ツアーの案内役・川島潤一さん。
1967年、福岡県生まれ。奥様と3人の息子と賑やかに暮らす。

 

一期一会の山の魅力

4月1日、工房信州の家の恒例イベント「選木ツアー」が行われた。

山の雪解けを待って毎年春からツアーを開始するが、前夜から予想外の大雪が降り続いたこの日。悪天候に不安げな表情を浮かべる7組のお客様を前に「雪降る森はしんと静かで、今日しか味わえない神聖な雰囲気がありますよ」と笑顔で声をかけたのが、山守の川島潤一さんだ。

山への愛と敬意に満ちた川島さんのお話に、お客様の表情もみるみる和らいでゆく。

 

 

脱サラしてゼロから歩んだ、山守の道

「山守」とは、山主から依頼され山の管理全般をこなす、いわゆる「木こり」の仕事だ。

芯のある川島さんは山一筋に歩んできたようにみえるが、実は畑違いの業界からの脱サラ。九州の大学で経済を学んだあと、全国転勤のある住宅設備会社で営業職に就き、転勤先の信州で山登りに興じながら「緑とともにある暮らしがしたい」と思い立った。

サラリーマン時代との一番の違いは、お昼ごはんの時間だそう。自然の中で食べる愛妻弁当は「格別に美味しい」。

山仕事の魅力にどんどんのめり込み、貯金を切り崩しながら修業を重ね、18年前に自ら「山造り舎」を起ち上げた。今の日本の林業は助成金ありきの一時的な間伐作業で終えるケースが多いが、ひとつの山を継続して管理維持するやり方を望む川島さんは、独立の道を選んだ。

  

木の二つの人生 命の“うつしかえ”

山守の使命は、山の健康を守ることだ。特に人が植えた木は、人の手入れによってのみ生き延びる。

選木ツアーでは、川島さんが10年以上管理を続けてきた山へと向かうが、周囲の山との明確な違いに誰もが驚く。一本一本の木が太く堂々とし、光に満ちた明るい山は下草までもが生命力に溢れている。

「木は伐採した時点で死ぬのではなく、お客様の家で第二の人生をはじめる。命をうつしかえるという感覚です。伐採の現場にお客様が立ち会うことで、木への愛着を持ちながら一緒に暮らしていけたなら、とても尊いこと」。一本の木へ、山へ、そしてここまで育ててくれた人への感謝の気持ちが芽生え、涙するお客様も珍しくない。

選木ツアーの取組みは今年で6年目、延べ参加人数は1000人を超えた。「信州の山の現状を体験してくれた方が県内に1000人も居るということ。やりがいがありますね」と力をこめた。

 


 

 

人の手で、山を“Build”する

川島さんが代表を務める「山造り舎」の“造る”という言葉には、英語で言う“build”の意味合いがある。健康な山を人の手で築き上げることを信条とし、ひとつの山を長年かけて維持管理する方針だ。

山造り舎では山主から整備の方針まで一任されることがほとんどで、「先代から受け継いだ山を放置してはおけない――けれど、どう整備したら良いのか分からない方が多いのでしょうね」。

山仕事は今やった仕事の結果が見えるまで5~10年かかる。この道18年の川島さんでも、奥が深く今だに分からないことが多いという。「厳しい条件も多いですが、それを差し引いても面白い。生き物相手ですからね」と屈託なく笑う。

 

 

山に入って、見てほしい

信州人にとって山は、まるで空気のように当たり前にそこにある存在だ。県内どこへ行っても山に囲まれている。しかし一方で、登山やスキーが趣味でもない限り、山に入った経験に乏しい人は多い。

川島さんは「山と人の距離が離れてしまった。物理的に近くても、意識の面では非常に遠い」と嘆く。

多くの現代人にとって山は「風景」でしかなく、日常と交わる場所ではない。

それは山主にとっても同じことだ。日本では高度経済成長期から輸入材依存の体制が今も根強く、もはや地域の山の木には価値が生まれないと考える山主は多い。結果、山に手とお金をかける意欲が薄れ、細く頼りない木ばかりが育ち、地域材の品質が一層低下する悪循環のサイクルが生じている。

里山が、信州人にとって本当の意味で「身近」であるために、まずは山へ足を運んでほしい。それが川島さんの願いだ。

 

そして、“魅せる”山へ

これからの展望を「管理する山すべてを“モデル林”、魅せる山にしたい」と語る川島さん。住宅会社がモデルハウスを設けるように、そこに人を招き山造りの在り方を示す場所だ。すでに顧客を案内できる多彩なパターンの森が信州のあちこちに育っているのだという。

「いい山を造りたい」、そのシンプルな想いで山守の川島さんは信州の“山”と真摯に向き合う。

そしてそれ以上に、信州の“人”と向き合おうとしている。

人の意識を変えなければ、里山の健康は守れない。お客様が選木ツアーで山をいかに楽しめるかを、工房信州の家スタッフ以上に考えているのも川島さんだ。

エンドユーザーと共に山と触れ合うことを生業とする稀有な山守が、今日も緑の国・信州を底支えしている。