信州の匠を訪ねて

日本の暮らしに根付く畳文化
居心地よさを、当たり前に

部屋面積を表す単位に”~畳“と用いられるほど、日本に根付く伝統的な建築材・畳。
若い世帯では畳の部屋は設けないお宅もあるが、「やっぱり椅子より地べたが落ち着くのが日本人。旅行で泊まる先も和室が嬉しいという方は多い。畳の暮らしは日本に根付いた、なくてはならないものだと思います」と話すのが、(株)トータルタタミサービス長野店店長の羽柴淳さんだ。

「住まいの中に当たり前にある畳だからこそ、お客様に”何も言われない”ことが良いこと。ストレスなく、当たり前に居心地の良い空間であって欲しいと思っています」

そんな羽柴さんが最も気を張る工程が、最後の”納品“だそう。
「畳作りは段取り八分ですが、納品のちょっとした気の緩みが不具合につながります。例えば、敷き込みが上手くいかなければ凸凹になり、使ううちにそこだけ擦れて傷みやすくなる。その場しのぎの誤魔化しではダメ」。
部屋の厳密な採寸と割付、工場で5回もの工程内検査を経て完成した高品質な畳を、最高の形で納める。お客様の要望に沿うことだけで満足せず、「納得いくまで完工せよ」の品質方針を体現するかのように、仕上がりを入念にチェックする羽柴さんの姿があった。

 

本物の素材でつくる

工房信州の家に使うのは、藁床(わらどこ)に国産い草の畳表で仕上げた、いわゆる昔ながらの畳だ。
畳の芯となる畳床(たたみどこ)は、最近では木質性ボードなどの建材が85%を占めるが、藁床のやわらかな足触りは建材床にはない居心地の良さを生む。また何度も表替えをしても耐えられる優れた復元力で、耐久性にも優れている。
い草は日本一の生産地である熊本産を使用。中国からの輸入品が増え国内消費の大半を占める昨今だが、中国産は若くて脆く、太くて丈夫な国産い草と並べると明らかに品質が違うのだと、羽柴さんが教えてくれた。

「本物の素材を使った畳は”生きもの“。人が使うことで色味とツヤを深めていきます。過度な湿気には気を付けて、変化していく風合いを楽しんで欲しいですね」


完成間近の工事現場に納められたばかりの畳。青々としたい草から香り立つ独特の匂いに安らぎを感じるのも、日本人ならではの感性かもしれない。

 

畳替えに、人生のドラマあり

畳屋の仕事は、大きく2つ。新畳を作ることと、既存の畳のメンテナンスを行うことだ。
畳表をひっくり返して新しい面にする「裏返し」や、畳床はそのままに畳表だけを新調する「表替え」など、状態に合わせたメンテナンスを施す。

興味深いのは、お客様に畳のメンテナンスを考えたきっかけを尋ねると、そのご家族の人生のドラマが見えてくることだという。「例えば、息子が婚約者を連れてくることになったから、娘が里帰り出産をするから、親族が集まる法事があるから、など、ご家族の大切な岐路に畳をキレイにする方がとても多いのです。そんなエピソードが聞けたときには、自分もその大切な場面の一員になれたような気持ちになり、やりがいを感じます」


コタツを囲んでもよし、小さな子供が寝転がってもよし。家族が集いくつろぐ場には、畳がよく似合う。

 

畳を通して、人生勉強

人生の岐路に畳がある——それを教えてくれたのは、入社から15年にわたりお世話になっている上司だという。

「正直に言うと、就職活動の当初、畳には興味が無くて。とりあえず仕事に就かなくちゃという軽い気持ちで、茶髪・ロン毛・ピアスで面接に行ったんです。その場で”不採用“を告げられ説教されたのが今の上司なのですが、何も知らない自分に真剣に向き合って可能性を見せてもらえたことが有難くて。その上司の話を聞くうちに、人と会社に惚れてこの道に入り、畳を通して人生勉強をさせていただいている感じです」

入社から9年間、松本市の本社工場で畳作りを0から学んだ。その後、長野店の新規立上げや飯田店店長などを務め、顧客開拓に奔走。
「畳屋は”待ち”の風土が根強い業界ですが、新しい土地での店舗開設にあたり、飛び込み訪問をしてとにかく名前を覚えてもらいました。困ったときに声をかけようと思ってもらえる頼りがいある存在になるべく、人とのつながりを大切にしています。お客様の思いと長い暮らしを思いやれる人間になりたいですね」


(株)トータルタタミサービス長野店店長の羽柴淳さん。山形村で奥様と3才のお子さんと暮らす。35才。

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