信州の匠を訪ねて

"水"が相手
風雨から建物を守る板金工事

板金屋さんの仕事は、建物の雨仕舞を整えることだ。
ガルバリウム鋼板で屋根を葺くことはもちろん、軒樋や窓上の小庇、土台水切りや外壁見切り縁など、板金工事の施工箇所は多岐にわたる。板金工事の品質次第では、雨漏りなどの不具合に直結してしまう重要な工事だ。

「水が相手だからね、とても素直で誤魔化しはききませんよ」と話すのは、この道32年のベテラン職人・竹村さん。
「水が漏らないことは当たり前で、さらに美しく付加価値の高い仕上がりを目指しています」と続けるのが、この道23年の酒井さんだ。

お二人は伊那市の(株)中央鈑金の板金職人だ。会社は県内で三本の指に入る事業規模を誇り、現在14名の職人を抱える。長野県じゅう、時には県外の現場まで出向き、一般建築から神社仏閣までさまざまな施工実績をもつ。

 

 

アイデア勝負の面白さ

水を侵入させないためには、出来る限り板金にハサミを入れず、すっきりとした形状に収める必要がある。

しかし現場には、屋根と外壁がぶつかる面や、屋根同士が重なる箇所、薪ストーブやエアパス換気口などさまざまな凸凹がある。板金を器用に折り曲げながら形作っていく様子は、まるで折り紙のように鮮やかだ。
細かな収まりは図面やマニュアルには表せず、現場で職人が考えて工夫するしかないが「そこが面白いんですよ」とお二人とも口を揃える。

「雨水の流れ、嵐の日の暴風、どんな条件にも耐えられる屋根にするための収まりを、イメージを膨らませながら加工します。他の業者や職人が嫌がるような複雑な建物ほど、正直燃えます」と話す酒井さん。
竹村さんも「30年以上やっていても、まだまだ工夫できるんじゃないかと思っていますね。腕はもちろん大切だけれど、アイデアも大切。当社の職人は誰もが向上心と負けん気を持ってやっていますよ」。

同じ中央鈑金の職人同士でも、互いのやり方を参考にしながら、日々競い合うように腕を上げているそうだ。

  
壁の接触面で雨水を受け流す工夫(写真左)と、煙突周りの美しい収まり(右)。
完成形はシンプルに見えても、実は職人の沢山のアイデアと工夫が詰まっている。

 

建物のてっぺんで働く、
その爽快さと怖さ

今やベテラン職人のお二人だが、元は竹村さんはトラック運転手、酒井さんは車のセールスマンをされていたという。
「誘われてこの道に入りましたが、高い所で黒く焼けた肌の職人を見て、格好いいと思いましたね」と竹村さん。
酒井さんも「二階の窓から見るのとは一味違う、屋根の上からの景色はこの仕事の特権。諏訪の現場では、富士山が見えることも」。

その一方で、危険と隣り合わせの過酷な現場でもある。

気候条件の影響をまともに受けるため「若手は”夏”に耐えられなくなって、辞める人が多い」と竹村さんは話す。
さらに、二階の屋根上では6~7mもの高さで作業をする。今は足場や安全装備が整えられているが、昔は何の囲いもない屋根にハシゴで登り、裸一貫でやっていたそうだ。

「今でも怖いと思うことはあります。でも怖さを知っているからこそ、安全作業につながるんだと思いますね」。

 

 
加工に欠かせない道具、板金ツカミ。使ううちにその人の癖が移り、手に馴染んでくる。他人のツカミでは仕事にならないそうだ。

 

好奇心が原動力

工房信州の家の施工を「面白い」と語るお二人。
「注文住宅で、同じ設計はひとつも無いから、毎回工夫のし甲斐がある。職人は皆、工場のような単純作業には飽き足らず、好奇心を原動力にやりがいを持って仕事をしています」。
より美しい仕上げを日々追及している、休日もつい現場に足が向く、施工した建物が解体される時を思うと寂しい‥といったエピソードからも、お二人の仕事への情熱がひしひしと伝わってくる。

今後の展望は、若手職人をもっともっと育成していくこと。
中央鈑金では、技術力に加え人間力向上も理念に掲げ、毎週の朝礼では本の読み合わせもしているという。

「板金屋になりたい!という積極的な選択肢は若い人にはあまり無いかもしれませんが、もっと注目されるように良い仕事をしていきたいですね。そして、県内で不動の大きな会社にしていきたい」。

信州の屋根からさらなる高みを目指すお二人の挑戦は続く。


多い時には年間60棟以上の当社現場を施工された(株)中央鈑金の竹村正美さん(53、写真左)と酒井聡さん(44)。

 

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