信州の匠を訪ねて

信州の新しいものづくり・空間づくり

明治から100年続く木芸工房で江戸指物の技術を受け継ぐ四代目——そう聞くと、お堅いイメージを持つかもしれないが、しなやかな発想と行動力で信州の新しいものづくりをリードする若き匠がいる。それが前田木藝工房の四代目、前田大作さんだ。

2007年にはアトリエ・エムフォオ株式会社を立ち上げ、新しい木工制作のあり方を提案するとともに職人の育成もビジョンに掲げる。
エムフォオ(m4)とは、“前田”姓 と “四代目” の頭文字をとったものだ。

そんなアトリエ・エムフォオがこの5月、松本市街地に”城東スタジオ”をオープン。築51年の旧医院をリノベーションし、年月を重ねた空間を活かした店内は不思議な居心地よさがある。
「オープニングイベントには県内外から多くの方にお越しいただきました。中にはこのスタジオを見て、展示をしてみたいという企業や作家さん、料理のワークショップをやりたいという声もいただきました。僕たちのものづくりは ”空間づくり” だと思っているので、何かをやりたくなる場として新しい出会いが広がっていくことはとても嬉しいですね」

 

 

先入観を覆す、松枯れ材のキッチン

家具から小物まで様々な作品が展示されたスタジオ内で、ひときわ目を惹くのがキッチンだ。

特に正面の幕板は、インテリアの主役になりそうな個性的な表情で空間を彩る。
樹種を尋ねてびっくり、これは「アカマツの松枯れ材」だそう。

松くい虫に付かれた木は、青変菌によって一部が青黒く変色するが、初期のタイミングで適切に加工すれば木材の強度に影響はない。
「この松枯れ材を見て、嫌だなとおっしゃる方は今まで一人もいません。業界の常識としては、松枯れ材は一様に使い物にならないとされますが、それは先入観。想定外のデザインを見たユーザーへ新たなヒントを与えられるのは、クリエイトする側の面白さですね」

暮らしの中心にある、大切な空間であるキッチン。
アトリエ・エムフォオでは2年前から本格的にキッチン制作に乗り出し、既存のメーカー品とも作家の一点物とも違う新しい選択肢——地域資源を活かし、高いデザイン性とクオリティを備えた商品の安定生産を目指していく。

 
城東スタジオの中心に据えられた、松材で仕上げたキッチン。
松枯れのアカマツの変色をデザインとして活かす発想と技術は、前田さんならでは。

 


(後編は7月末に更新します)

コラム|信州の匠を訪ねて

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